堕ちてくる
呼応
電話が鳴った。けれども、彼は電話を取ろうともしなかった。代わりに、彼の母親が電話を取った。
「何ですって・・・。」
驚きの声に、彼は聞き耳を立てた。はっきりとは聞こえないが、担任の坂井に何かあったらしい。その事がわかった時点で、彼は聞き耳を立てるのをやめた。学校に行っていない彼にとっては、担任がどうなろうが知った事ではない。そう思い、ベッドに横たわった。
「た、大変よ。坂井先生が・・・死んだって・・・。」
―――死んだ?
思わず聞き返そうとしてやめた。何も言わずに、母親に背を向けた。
「聞いてるの?坂井先生が死んだのよ。」
「関係ないね。」
彼がそう言うのは当然の事だった。彼は、いじめにあっていた。そのせいで、今、こうして他の生徒たちとは世界を別にしている。そして、そのいじめの先頭に立っていたのが、担任の坂井だったのだ。
彼は必死に訴え続けていた。それを母親は、話半分にしか聞いていなかった。まさか、担任が生徒をいじめるなんて事はあり得ない。そう考えていたからだ。しかし、人の死を前にしても態度を硬化させる息子の態度に、訴えは真実だったんだと理解した。
その事を後悔し、静かにドアを閉じた。
「あんな奴、死んで当然だ。」
壁を蹴飛ばした。

彼はうなされていた。昼間、母親から坂井の話を聞いたせいで、学校に行った時の厭な、とても厭な記憶がはっきりしてしまったせいだろう。
暗い闇の中に、彼はひとりきりだった。どんなに助けを求めても、誰も助けてはくれない。むしろ、虐げられるくらいだ。彼は、自分を虐げるものの顔を見た。こいつも、あいつも見た顔だ。クラスメートの顔。どんなに忘れようとしても、忘れられない顔達に、怒りのあまり目を覚ました。
「はぁ、はぁ。」
そこからは、もう眠れない。眠気より、遙かに怒りの方が優勢だ。恨み、辛みを頭に思い浮かべ、またそこから、別の恨み、辛みを思い出していく。堂々巡りだ。

彼の怒りに呼応するものがあった。それらは、彼が求めて止まない空より先、宇宙にいた。そして、それらも彼を求めていた。ただ、それらはその理由を語る口を持っていなかった。だから、なぜ彼を求めているのかはわからない。
ただ、ひとつだけ言える事。信じられない事が起きているという事だ。
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