社長に求愛されました


「やっぱり何か悩んでんのか、こいつ」
「随分前からみたいですけどね」
「それ、井上は知ってるのか?」
「私もちゃんと聞いたのは最近ですけど……。
社長命令なら話しますけど、どうしますか?
私としては、高瀬が必死に頑張ってる事だし、それを言うのは気が引けますけど」
「嘘だな。だったら、何悩んでんのか知らないって言っておけばよかっただろ」

厳しい指摘に、綾子は困り顔で微笑みながら答える。

「そうですね。その通りです。
私も揺れてるんですよ。言うべきか言わないべきか……。
でももう高瀬ひとりで抱え込んでるのも見てて我慢できないし、かと言って私が口出ししていいものか分からないですし。
だから社長が決めてくださらないかなって」

丸投げですみません、と謝る綾子に、篤紀は即答とも言える速さで答えた。

「社長命令だ。話せ」

少しくらい考えると思っていた綾子は驚いた瞳で篤紀を見つめる。

可能性としては半々くらいだと思っていた。
ちえりの事をよく意地っ張りだとは言っているが、綾子が思うに篤紀自身もそういう部分は垣間見られる。
だから、どうしますかと聞けば、プライドだとか意地が邪魔をして簡単には頷かないんじゃないかと予想していたのだが……。





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