社長に求愛されました


「このまま終わりになるのが嫌だったのよ。
高瀬の言ってる事はよく分かってる。高瀬が考えてる事だって分かってるつもりよ。
そして多分、それは正しいのかもしれない。
立場の違いは簡単にはどうにもならないし、まして社長が御曹司ともなれば余計に」
「だったら……」
「でも、だからってこのまま高瀬が社長に想いを告げないままでいるのは我慢できなかったの。
そんな聞き分けのいい恋愛、嫌だったのよ」

綾子自身、ちえりの言う事はよく分かっているし、黙って身を引こうとするちえりを正しいとも思う。
この先のふたりの事を考えれば、きちんと付き合いだす前にけじめをつけた方がいいのかもしれない。

でも、それでも……このまま黙って見ているのは嫌だったのだ。
それを無責任だとかわがままだとかそんな風に責められる結果になるとしても、それでも我慢できなかった。

篤紀の幸せのためにと、ちえりが篤紀への想いをひとりで抱え込んで身を引くのをただ見ているなんてできなかった。

だから、篤紀に選択肢を作ったのだ。
ちえりの不安や葛藤を半分背負う覚悟があるかどうかを、篤紀の気持ちをきちんと計り知りたくて。





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