社長に求愛されました


そう笑う綾子をよそに、ちえりは下田に視線を移す。
痛々しい湿布を眺めているとこちらを見た下田と目が合い、ぺこりと頭を下げて篤紀の代わりにケガをさせた事を謝る。

「すみません、下田さん……。大丈夫ですか?」
「ああ、全然! 俺、野球のポジションキャッチャーだったから、ホームに突っ込んでくるランナーとよく交錯プレーしてたし慣れてるから」

ただ、キャッチャーミットしとくべきだったなぁと冗談を言って楽しそうに笑う下田の心の広さは、きっと海並みなのだろうとちえりは感心してしまう。
仕事とはまったく関係ない事で上司に頭突きされるなんてありえないのだ。

まったく社長の身でありながら社員に救われっぱなしでいいのだろうかとため息をつきつつ、本来なら傷害罪で起訴されている篤紀をちらっと見るとバツが悪そうな瞳と視線がぶつかった。
一応、罪悪感はあるらしい。

「仕方ねぇだろ、必死だったんだから」
「……まず、下田さんに謝るべきだと思いますけど」


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