社長に求愛されました


「弟が卒業するまでなんて言ったのは、私が社長に向き合わない言い訳です。
そういう理由も少しはありましたけど……8割嘘でした」
「嘘? つーかなんだ、向き合わない言い訳って」

顔をしかめる篤紀に、向き合うように座り直したちえりが説明する。

「怖かったんです。社長が……私の中で大切な存在になるのが」

そうもらしたちえりを、篤紀が驚いた顔で見ていた。
今までこうした話をちえりがしたがらなかった事を知っていたから、こうして話そうとしてくれる事に驚かずにはいられなかった。

「付き合っていくうちにかけがえのない存在になっちゃったとしても、いつか別れる時がくるかもしれない。
それで社長が遠くなっちゃうなら、今のままの関係がずっと続く方がいいって、そう思ってたんです」
「今のって、上司と部下って関係か?」
「はい。でも……社長も気づいてるように、恋人だとか付き合ってるだとかそんな言葉の約束がなくても、結局私にとって社長は……いつの間にか隣にいて当たり前の、大切な存在になってたんです。
社長が……全然諦めずに、いつも傍にいて手を繋いできたりキスしてきたりするせいで、気持ちが揺らいでうっかり社長の方に堕ちちゃったんです。
私が必死に堪えてたのに」
「……それは俺が悪いって言いたいのか?」


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