社長に求愛されました


少し不安そうに聞く篤紀に、ちえりはその表情をじっと見つめた後、思わず笑みをこぼす。
俺の事好きになれだとか、そんな強気な言葉が許される人なのに、なんでこの人はいつもどこか弱気なのだろうと考えたら可愛く思えて仕方なくなってしまったのだ。

いつも図々しいほどに隣にいるのに、肝心なところはいつも弱気でちえりの気持ちを優先させる。
ちえりが三年待てと言えば従って待ってしまうほど、ちえりの想いを大切にしてくれる。

そんな優しさに、嬉しくて堪らなくなってしまって……ちえりの瞳に熱い感情が浮かんでこぼれる。

「な、なんで泣いて……。そんなに俺の事嫌いなのか……?」

不安そうに崩した顔で真面目にそんな事を聞いてくる篤紀に、ちえりがふるふると首を振ってから、篤紀の胸におでこをくっつけた。

「社長の事が、嫌いなハズないじゃないですか……。
私は、嫌いな人とキスできるような器用な女じゃありませんし、嫌いな人に三年も待つって言われたらストーカーとして通報します」
「それ……」
「これ以上は言いません。これ以上は……言えません」


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