社長に求愛されました

言ってしまったらもう戻れない。
自分が、ではなく、きっと篤紀も……。
ずっと隣にいる覚悟を決めなければ気持ちに応えるべきじゃない、ちえりはそう考えていた。
そういう覚悟を持っていないと、いずれ自分の弱さゆえ篤紀を傷つける事になると分かっていたから。

篤紀の気持ちに応えるなら、篤紀がちえりの事が原因で周りにどんな風に言われても、それでも一緒にいたいという気持ちを貫き通せなければならない。
もしも一度篤紀の気持ちに応えた後で、やっぱり篤紀が何か言われるのが嫌だから離れるなんて事になったらそれこそ篤紀を傷つけてしまうと思うからだ。

だから、気持ちに応えるなら、篤紀が自分のせいでどんな目に遭っていても、篤紀から望まれない限りは離れない、そういう覚悟が必要なのだ。

だけどそれは、ちえりにとってはわがままにしか思えなかった。
自分が一緒にいたいから、一緒にいられるならその代わりに篤紀がどんな事を言われてもいいなんて風には到底思えないのだ。
例え篤紀が一緒にいる事を望んでもだ。

わがままを言う事に慣れてない上に抵抗のあるちえりにとっては、いくら篤紀が好きだからといっても、その理由だけで一緒にいる事を望むことは難しかった。
篤紀を好きだからこそ、望めないのだ。
自分のせいで篤紀が悪く言われるなんて、絶対に嫌だったし、そんな篤紀を目の当たりにするのだって耐えられない。