恋はしょうがない。~職員室であなたと~
「…いえ、別に迷惑ではなかったです。私も家庭訪問で外出したし…」
「あいつらが職員室に押しかけて来るから、放課後は部活に行くことにしたんだよ。県体も近いし、この時間なら、さすがにあいつらも帰ってるだろうから」
と、古庄はジャージ姿のまま、机に着いて仕事を始めた。
よく見ると、ジャージのところどころに土が付いている。
サッカーと同じようなジャージだけど、サッカーではこんな風には汚れない。
きっと古庄は、ラグビー部員たちの厳しい練習に、その胸を貸したのだろう。
真琴は、見覚えのあるそのジャージを横目で見て、あのしだれ桜の下にたたずんでいた人物だと確信する。
その正体も判らなかった人物は、あの時からずっと真琴の心の中に住み続けていた。
――古庄先生だったなんて……。
正体が判って嬉しく思う反面、戸惑いのような不思議な感覚が真琴を満たした。
地図帳を取り出したので、古庄は明日の授業の準備をしているのだろう。
古庄が何かを書き留めているその動きを、右側に感じながら、真琴はバッグを抱えてそっと席を立ち、帰宅の途に就いた。