蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「こんばんは。何だか楽しそうだね」
背後から聞き覚えのある声が飛んできて、藍はやっと美奈の頬ずり攻撃から解放された。
佐藤家の婿養子で美奈の夫の貴之が、接待クリスマス・パーティとやらから帰って来たのだ。
「あら、あなた。お早いお帰りで」
言葉とは裏腹に、美奈は荷物を受け取ると、夫に優しい笑みを向ける。
少し気の強い美奈と、優しげな文学青年と言った風貌の貴之。
良い夫婦だな。
藍は、素直にそう思った。
「あ、こんばんは。お邪魔しています」
「藍ちゃん、こんばんは。ああ、ちゃーの子猫が生まれたんだね」
藍がペコリと頭を下げると、貴之は段ボールの中を覗き込んでニコニコと笑顔を浮かべた。
「何か食べるもの作ろうか? どうせ飲まされ役で、ろくに食べてないんでしょう?」
「そうだな。お茶漬けでも貰おうかな――。ああ、そう言えば、拓郎君も今帰ったみたいだよ」
貴之の言葉に、藍の鼓動がドキンと跳ねる。