蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
藍が名を偽っていたことを知ってショックを受けたが拓郎だったが、藍の素性はショック所じゃなく衝撃だ。
藍の本名は『日翔藍(ひかけあい)』
恐らく、知らない者はないだろう日本で1、2を争う大企業の日翔グループ。
その会社を一代で築き上げた伝説の企業家『日翔源一郎』の唯一の孫娘。
つまりは、次代のHIKAKEグループを引き継ぐ後継者、それが藍だったのだ。
拓郎が半分茫然自失の状態で料金の精算を申し出ると、恭一はクスクス笑いを浮かべて「僕の仕事は高いですよ?」と目を細めた。
「あ……」
さすがに百万以上の単位で請求されたら、拓郎には払い切れない。
「すみません。分割、お願いできますか?」
本当にすまなそうに申し出る拓郎の様子に、恭一が『あははは』と愉快で堪らない様子で笑い声を上げた。
「冗談ですよ」
「は?」
「いや、本当に普段ならきっちり料金を頂くんですが、藤田さんの紹介ですからね。そうですね……」
恭一が、ニッコリと微笑む。
「芝崎さんは、カメラマンでしたね。じゃ、僕の写真を一枚撮って下さい」
そう言って、「美人にね」と冗談か本気か分からない口調で付け加えた。