蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「俺は、藍が”何者だから”とかで好きになった訳じゃありません。
彼女だから好きになったし、愛しいと思うんです。
今更、その気持ちをなかった事に出来る程、俺は器用な人間じゃありませんよ。
柏木さん、あなたは、違うんですか?」
拓郎の切り返しが、よほど思いがけなかったのだろう。
柏木が面を食らったような顔をした。
拓郎は、昔から「人の好悪の感情」が良く分かった。
それは、両親を亡くしてからの生活で培われたのだが、表面上でどんなに取り繕っていても、その人間が自分をどう思っているのか、良く分かるのだ。
だから、誰が誰を好きか嫌いかと言うのがすぐ分かってしまう。
柏木の日掛藍を見る眼差しは、紛れもなく「愛する人」を見るものだった。そしてまた、彼女のそれも、同じだった。
つまり、柏木と日掛藍は、「相思相愛の恋人同士」だと、最初に会ったとき拓郎は確信したのだ。
「……君は、見掛けによらず、鋭いことを言うね」
柏木が、そう言って苦笑する。