蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「ははははっ。君は相変わらずだねぇ」
何故か嬉しそうに言う彼に、浩介は思いの丈をぶつけた。
「笑っておられる場合ですか? 治療はちゃんとなさってるんでしょうね? これでも、外科医の端くれです。私で良ければ、治療に参加させてください」
矢継ぎ早に問い掛ける浩介に、笑顔のまま衣笠は穏やかに呟いた。
「治療は、もう余り意味がないんだよ。もう、すでに末期でね。……まぁ、『医者の不養生』って奴の見本だね。『因果応報』の方が当たっているかもしれないが……」
今までとは違うどこか自嘲気味なその笑いに、彼の心の奥底にある物を垣間見た気がして、浩介は何も言えなくなってしまった。