蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

「どうして、私だったのですか? 移植手術の為と言うなら、いくらでも優秀な医者がいたでしょうに……」


浩介は、素直に浮かんだ疑問をぶつけてみた。


――金の為なら、倫理感も良心も売り渡す様な人間はいくらでもいるだろう……。


自分は、そう言う人間だと思われたのだろうか? 


「柏木君、君は私が知っている中では、最高の外科医だよ……。しかし、私の目的はむしろ、君の研究の方にあるんだよ」


「研究って、『動植物における生体冷凍保存』ですか……? それと、臓器移植と何の関係が……」


浩介は、一つの可能性を思いついて、まさかと思いつつも口に出した。


「まさか教授は彼女を、コールドスリープさせるおつもりですか?」


少しの沈黙の後、衣笠が静かに口を開く。


「一つの、選択肢だと思っているよ」


浩介にはそれが「唯一の選択肢」だと、そう言っているように聞こえた。

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