蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

衣笠から、所長の職を引き継いだ四ヶ月後の翌年二月。


彼は帰らぬ人となった。 


何度か見舞いに行った病室のベットの上で、彼は浩介に語ったものである。


「実はね、源一郎の亡くなったカミさんって言うのはね、私の初恋の人でね。その人を、彼と争って、負けたんだよ」


懐かしむように遠くを見る目に、今はもう、悟ったような穏やかな表情しか浮かんでいなかった。


「あの子供達は、彼女に良く似ているよ……。存外、私はロマンチストでね」


そう言って、やはり穏やかに笑っていた。 


あの笑顔が、今も浩介の脳裏に焼き付いて離れない――。

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