蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


衣笠の訃報を聞いたその日、一日の仕事を終えた浩介は、珍しく時間通りに自室に戻った。


その部屋を浩介は、衣笠が使っていた時のそのままの手を入れない状態で使っていた。


白衣をソファーの背に脱ぎ捨てると、そこに座り込む。


疲れていた。


身体がではない、心が。


自分が他人の死にこんなにショックを受けるとは、浩介は思いもよらなかった。


外科医と言う職業柄、患者の死に立ち会う事は、別に珍しいことではなかったのだ。


十八の時、自分の母親が交通事故で死んだ時だって、こんな気持ちにはならなかった。


「お前は、冷たい人間だな……」


そう言ったのは、父親だったか――。

< 361 / 372 >

この作品をシェア

pagetop