蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「藍、起きてるんだろう?」
拓郎は、ベットで彼女が寝ていないのを再確認して、もう一度襖の向こうに呼びかけた。
だか、やはり何の反応も返っては来ない。
トイレにでも入っているのだろうか?
だとしても、聞こえれば藍は返事をするだろう。
拓郎が今居るのは、寝室として使っている6畳の和室。
襖を隔てた隣は約12畳程の洋間で、LDKになっている。
この二つの部屋が、拓郎の『我が城』の全てだ。
1LDKしかない狭い間取り。
何処にいても、拓郎の声が届かないはずはなかった。
シンと静まりかえった無機質な部屋の空気には、拓郎の他に人の居る気配は感じられない。
「……藍?」
おかしい――。
いつもなら、目覚めればとなりで寝ているか、朝食を作っているかのどちらかだ。
この半年一緒に暮らしてきて、これ以外のパターンを拓郎は知らない。
ならば、導き出される答えは、ただ一つ。
『藍は、アパートには居ない』