蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
第六感とでも言うのだろうか。
今までの経験から、こういう感覚、とくに悪い予感は皮肉なことに良く当たるのだ。
とにかく藍を、探そう。
会って、理由を聞こう。
それが、納得出来る物なら、それでいい。
それに、案外取り越し苦労で済むかも知れない。
拓郎は、急いで普段着のジーンズとシャツに着替え、部屋を出ようとしてハッと気付いた。仕事道具、カメラ一式を無意識に持っていたのだ。
「ったく、しょうもない!」
こんな時にまで『カメラマン根性』が出てしまう自分に舌打ちをし、玄関にカメラを置くと、勢いよくドアを開けた。
瞬間、パサリ――と、足下に白い封筒が落ちる。
白地に淡い黄色の色彩で、向日葵の花が描かれている、見覚えの有る封筒。
それは二日前、滅多に自分から外出をねだることがなかった藍か、珍しく言い出した動物園行きの帰りに、コンビニで買ったものだ。
「向日葵の花に憧れるの」
凛と太陽をまっすぐ見つめている、その強さに憧れるのだと。
そう言って封筒に描かれた向日葵を見詰めて、眩しそうに目を細めた、藍。
「夏になったら、一面の向日葵を見に行こうか」
昨年仕事で訪れた向日葵牧場のことを思い出して拓郎が提案すると、藍は嬉しそうな笑みを浮かべた。
確かに、どこか力の無い笑顔ではあったが、はしゃぎすぎて疲れたのだろうと思っていた。
もしかして、あれはこの先触れだったのか?
ごくん。
拓郎は、つばを飲み込み、足下の封筒を拾い上げた。
白い封筒の中には、揃いの便せんが一枚。
可愛らしい繊細な文字は、確かに藍の筆跡だ。
拓郎は、早る気持ちを抑えつつ、書き記された文字を目で追った。