初デート~12年目の恋物語 番外編(1)~
「でもね、ママ、」
続けようとすると、沙代さんが口を挟んできた。
「奥さま、そろそろお時間じゃないですか? 昨夜、今日は早く行くと言ってらっしゃいませんでした?」
「いけない! そうそう! もう出なきゃ!」
ママは急いで新聞を閉じ、残ったコーヒーを一気に飲みほした。
「とにかく、叶太くんと行きなさいね! 大丈夫、行き先はどこでも、喜んでついてくるから!」
ついてくるから……って。
ママったら。
わたしが何も言えない内に、ママは勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、いってきます」
ドアに向かう前、思い出したように、ママはわたしのところに来て、わたしの頭をギュッと抱きしめた。
それから、すごい勢いで、ダイニングを飛びだしていった。
「いってらっしゃい」
と、わたしが言った声は、ママに届いたかしら?