キスしたくなる唇

偶然の出会い

千秋Side
******

「お時間は取らせません。アンケートよろしくお願いします」

 この言葉を何十回言っただろう。

 ようやく35人。

「あと165人か……気が遠くなりそう」

「千秋さん、こんなところでなにやってるの?」

 ぼそり呟いたところへ、少し低めの落ち着いた声に、わたしは飛び上がりそうになった。

 誰なのか、見なくてもわかる。

 アンケート用紙に顔を落としていたわたしは小さく深呼吸し平静を装うと、顔を上げた。

「怜央、偶然だね」

 顔を上げると、目の前に黒縁のメガネをかけた怜央が立っていた。

 フリップにある怜央の唇を何度も見てしまったせいか、わたしの視線は生身のそこへ行ってしまう。

 軽く笑っている唇に、三井さんの官能的、セクシーの言葉を思い出してしまう。

 たしかにちょっと大きめの唇で……ぱくりと食べられて――

 そこでわたしは我に返る。

 なんてことを考えちゃってるのっ! ありえないっつーの。

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