闇に響く籠の歌
遥のその声に、圭介は当然だろうというような表情を向けることしかできない。そんな彼に対して、遥は不満いっぱいという声をぶつけてくる。


「その顔、なによ。圭介のくせに、そんな顔してもいいと思ってるの?」

「お前が何も分かってないからだろうが。おじさんの仕事ってなんだ?」

「悪いことのできない公務員」

「だよな。ついでに守秘義務まみれのね。だったら、家に仕事のこと持ち込めないの分かるだろうが。それに、お前にみたいに好奇心旺盛に首突っ込んでくるバカがいれば余計だろうな」

「バカとはなによ、バカとは! ほんと、圭介と話していると腹が立つことしかないじゃない」

「だったら、黙ってれば? 今回だって、お前が俺を無理矢理引っ張ってきたんだろうが」


そこまで言われると、さしもの遥も口応えができなくなっている。ようやく静かになった彼女の姿にため息をついた圭介は、雑居ビルの入り口を指差していた。


「ほら、あそこだろう? でも、立ち入り禁止のロープも何もないぞ。ほんとに、ここか?」

「ええ、そうですよ。警察は現場検証が終わったとたんに、何もかも片付けましたからね。今頃、ご遺体は遺族の方に引き取られていると思いますよ」


突然、背後から聞こえてきた声に、圭介は飛び上がって驚いている。オカルト好きの遥もこういう突発事態には対応できないのだろう。顔色が青ざめ、周囲をキョロキョロと見渡している。

そんな二人の背後から聞こえるクスクスと笑う声。それと同時に、先ほどと同じ柔らかい音が響いてきていた。


「君たち、高校生だね。その制服は月影高校? 好奇心が旺盛な年頃なのは分かるけど、こういう血なまぐさいところに来るのは、いただけないよね」

「そういうあなたはどうなんです?」


ゆっくりと背後を振り返りながら、圭介はそう問いかけている。彼の背後にいたのは、20代半ばにみえる若い男。人あたりのよさそうな雰囲気に、圭介の警戒心も少し解かれようとしている。
そんな時、あたりには別の声も響いてきていた。


「おい、ここで何してる。公務執行妨害で逮捕されたいのか?」


突然、聞こえてきたそれに、圭介に声をかけてきた相手は肩をすくめている。その態度が相手の感情を不愉快にしたのだろう。先ほどよりも苛立った声が投げつけられる。

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