闇に響く籠の歌
「水瀬君はそう言うけどね。でも、深雪だってそう思ってたんじゃないの? だから、あの日だって私たちと一緒に遊んだんだと思うし」

「あの日? じゃあ、深雪が事故に遭った日って斎藤さんたちと一緒だったんだ。ふ〜ん、そのことは知らなかった。でも、どうして黙ってたの? こういうことって、僕には知る権利があると思うけど?」

「そ、そりゃ、そうかもしれないけど……でも、深雪があんなことになっちゃったしね。いろいろと週刊誌なんかで水瀬君のこと叩かれてたじゃない。だから、連絡もしない方がいいかなって」


どこかオロオロした調子で綾乃はそう告げることしかできない。その時、その場には別の声も響いていた。


「そうなんですね。じゃあ、彼女と最後まで一緒にいた人ってあなたで間違いないんですね」


まさか、その場で柏木が口を開くとは思ってもいなかったのだろう。その場にいた誰もが凍りついたようになっている。そんな中、柏木は綾乃の前にグイッと詰め寄ると同じことを問いかけている。


「ねえ、教えてくれますよね? あの夜、他の仲間と一緒に彼女と夜中まで騒いでいた。でも、最終的に彼女と最後まで一緒だったのはあなただった。そうなんですね?」

「か、彼女って誰のことよ……」

「あなたがさっき話していた深雪さんですよ。話の流れでそうだってわからないんですかね」


どこか小馬鹿にしたような調子で柏木がそう返していく。どこか穏やかだと思っていた彼の口調が水瀬のように辛辣なものだ。そう思った圭介はポカンとした顔で柏木をみることしかできない。そんな周囲の視線を感じたのだろう。綾乃は半ばヒステリックに叫んでいた。


「一体、あなたって誰よ! 水瀬君にそう言われるのならまだ納得いくけど、あなたって何の関係もないでしょう? そんな人にとやかく言われたくないわ!」

「関係ない? そう見えるかもしれませんね。でも、教えてもらってもいいんじゃないんですか? だって、あなたが彼女と一緒にいたのは事実なんですし」


柏木の声に綾乃は手をプルプルと震わせている。そのままの勢いで、彼女は叩きつけるように言葉を吐き出していた。


「そうよ! 深雪と一緒にいたわよ! でも、私は何も知らないわよ。あれって、あの子が勝手に足を滑らせて落ちたんだから!」
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