俺様常務とシンデレラ

常務がむすっとしてそう言いつつドアを閉めると、夏目さんが薄く微笑んで車を発進させる。


そういえば、20年前のあの日にも夏目さんが常務の側にいたということは、この人、少なくとも40歳以上ってことだよね……?

み、見えない……!


私が新たな事実に軽く衝撃を受けている間にも、車はホテルの敷地を出て迷うことなく進んで行く。


「あ、あの、どこに行くんですか?」


あれからわけもわからず常務に手を引かれてホテルを出た私には、行き先がさっぱりわからない。

もうこれ以上予想外のことは起きて欲しくなくて、なんとなく不安になりながら常務を見ると、彼はニヤリと不敵に笑う。


そして指で私の顎をすくい上げ、妖しく囁いた。


「決まってんだろ」

「んっ……」


運転席には夏目さんがいるというのに、突然キスをする常務に驚いて目を見開く。

これでは、夏目さんからも、リアウインドウからも、ふたりがキスをしているのは丸見えだ。


「もちろん、常務のマンションへ向かいますよ」


キスに忙しい常務の代わりに、夏目さんが答える。

ちらりと見たルームミラーに映る夏目さんは、いたずらっぽく、だけどいつもよりうんと嬉しそうに笑っていた。



「おとぎ話のシンデレラは、馬車で王子様のお城に戻るものと、決まっていますからね」
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