俺様常務とシンデレラ
「はいはい、わかったよ。本当はすごく優しいのに、優しくするのが下手くそなんだろ。それは何回も聞いたよ」
俺はまたいつもの調子で子どもみたいなことを言うお母さんの言葉を、げんなりして遮った。
お母さんは大人のくせに、いつまでも夢みたいなこと言ってる人なんだ。
お母さんの口癖は『女の子はいくつになっても夢を見られるのよ』と、『お父さんは優しくするのが下手なだけなの』だ。
もう何回聞かされたことか……。
ほんとに世話が焼けるぜ。
でもまあ、お母さんにこんな幸せそうな顔をさせるんだから、とーちゃんも案外いいやつかもしれない。
いっつも仕事ばっかりだし、すーぐ怖い顔して怒るけどな。
俺はリサイタルがはじまる前にトイレに行くと言ってこっそり抜け出し、夏目を連れて教会の前で空を見上げていた。
「俺もいつか、うんめーの相手を見つけられると思うか?」
俺がさっきのアンクレットが入った箱を預けながら参考までに聞くと、夏目はちょっと考え込む。
まったく、まじめなやつだな。
「そうですねえ、僕も出会ったことがないので、なんとも言えませんが……。僕も大和さんの"運命の相手"を一緒に探しますよ」