俺様常務とシンデレラ
完全に床に座り込んだ私に覆いかぶさるようにキスを続け、たぶん真っ赤になっている私の顔を見て黒い瞳が満足そうに笑った。
「ぷはっ……!」
やっとキスから解放されても、私の視線は絡め取られたままで、その漆黒から目を離せない。
常務の繊細な指先が、私の熱い頬をそっとなでた。
「身体のほうは優秀だな。どうやらすぐに理解したらしい」
息を乱す私とは対照的に、不敵に笑う常務は髪の毛ひとすじ乱れていない。
いつの間に緩めたのか、ネクタイの結び目が少し緩くなり、そこから覗く首元が私の胸をきゅーっと締め付けた。
「いい顔だ。俺だけのものにしたい」
耳元で低く囁かれた甘い声に、私の肩はピクリと跳ね上がる。
常務はその反応にご満悦の様子で目を細め、身体を離してネクタイを直し、まだ放心状態の私を残してスタスタと部屋を出て行った。
キスを、してしまった。
たったひとりの王子様と出会い、おとぎ話のように恋に落ちることを、ずーっと夢に見ていた。
果たして、そのキスは。
それは夢のはじまりか、それとも夢の覚める合図か。
めくるめく甘い恋の予感にめまいがして、私はそっと目を閉じた。