色のない世界。【上】
親父の後を黙ってついていく。
長い縁側を通って行くと、あっという間にじじいの部屋についた。
じじいと会うのは久しぶりだ。
別に喜んでるわけじゃねぇ、出来れば会いたくない奴だ。
部屋の前には既にヤマトに連れられてきた女がいた。
「…喜史か、さっきから騒がしいぞ。何事だ」
部屋の中からじじいの声が聞こえた。
すると親父は部屋の前に正座して、頭を下げた。
「…大将、九条院家の護衛人の女が頼みがあると言って来てます。部屋に入れても宜しいでしょうか?」
普段はじじいのことを「父さん」と呼ぶ親父も、表の顔つきだと「大将」と呼んでいる。
俺でも聞くのは初めてかもしれない。
「…入れ」
しばらくの沈黙の後、じじいの許可が降りて俺や女はじじいの部屋に入った。
中に入るとキセルを咥えたじじいが相変わらずの険しい顔つきで座っていた。