精霊の謳姫
精霊たちが心配そうに見守る中、
リディアは慎重に窓から猫のいる木に
渡り乗り__
…そして今に至る。
人一人の重さで枝が微かに上下したのを
合図に、蝶はふわりと羽を広げて空へと飛び立ってしまった。
命拾いをした蝶を惜しげに見送った猫は、
ゆっくりとリディアを振り返る。
「シャーッ!」
救済の手を差し伸べようというリディア
の気を知ってか知らずか。
猫はリディアに避難の一瞥を投げると、
興がそがれたとでも言うようにぐっと体を縮め…
「あ…!
危ないっ!!」
トン、と枝を一つ蹴った。
猫は重力に抗いもせず急降下で落ちて
行き…
…枝から枝へと飛び移りながら、
器用にその木を降りて行った。
その身軽さに脱力したのも束の間、
本当に大変なのは飛び降りる猫を見て不用意に身動きをしたリディアの方である。
「…嘘でしょう…?」
絶望的な視線が注がれる先で、既にメキメキと不穏しか感じさせない音が彼女の恐怖を煽っている。
お約束の未来にリディアは青ざめた表情でゴクリと生唾を飲む。
精霊達が慌てて枝の根元を支えようと集結するが、術式や詠唱を持たない精霊達にそんな力が宿る筈もなく…
思いも虚しく重さに耐えかねた枝が、
くず折れるかと思われたその時。
悲鳴をあげていた枝の声がピタリと
止んだ。
なんとか寸でのところで持ち堪えたようだ。
リディアの口から安堵のため息が零れる。