エターナル・フロンティア~前編~

「忘れていたな」

「忘れてはいないよ」

「じゃあ、何か買おうか」

「イリアに欲しい物を聞いて、それからカディオに相談する。それで、いいじゃないか。まだ、時間はある」

 途中から自分でも何を言っているのかわからなくなってしまうほど、明らかに動揺していた。そのことはソラ自身もわかっていたが、それを気付かれないように冷静な素振りを見せる。

「あれ? 毎年、普通に買っていたじゃないか。俺はてっきり、そうするかと思っていたぞ」

「今までは、適当に買って渡していた」

「それは、相手に失礼だぞ。女って、心の篭ったプレゼントを好む生き物だからな。ほら、選ぶぞ」

「面倒」

 その言葉にカディオは肩を竦めると、ソラを引きずるようにして店の奥に連れて行く。抵抗は愚かな行為とわかっているソラは、抗うことはしない。力関係で言えばカディオの方が上で、下手に暴れて骨でも折られたら堪らない。それだけカディオの腕力は、恐ろしいものがある。

「幼馴染の好みくらい、知っていないのはおかしいぞ。それでよく、今まで幼馴染関係をやっていたな」

「別に、お前に関係ない! そんなことより、何でイリアの好みを知っていないといけない」

「長い付き合いなのだから、知っていて当たり前だ。それを知らないお前の方が、酷いと思うな」

「別に、イリアと付き合っているわけじゃないし……知る必要もないだろ。それに、一年に一回しかプレゼントをしていない」

 二人の関係は、友人同士。それ以上でなければ、それ以下でもない。しかしカディオは、それが許せない。つまり「イリアが可哀想」という気持ちを考えないという、身勝手な言い分であった。

「女心を踏みにじる奴め」

「……踏みにじっているのは、イリアだよ」

 流石にこれを聞かれるわけがいかなかったので、小声で呟く。それは、イリアから「金を貸して」と言われたことを思い出したからだ。幼馴染という理由で、金を借りに来る相手に「女心」はわからない。そのことを知らないカディオは、本当に気楽であった。もしこのことを知ったら別の反応を見せていただろうが、ソラはそのことを彼に話すつもりはない。
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