エターナル・フロンティア~前編~
(何だろう……)
相手に嫌悪感を抱いているのなら、迷惑なら迷惑だと言えばいい。それを言うことのできない優柔不断な自身の性格に、イリアは嫌気が差してしまうがどうすることもできない。クラスメイトからは「強く言った方がいい」と言われているが、卒業までの辛抱だと諦めている。
盛大な溜息をついた後、イリアは窓の側に行くと漆黒の空間を見詰める。宇宙空間に美しく光り輝くのは、他のシャトルにコロニー。または、宇宙ステーション。だが一番に目に飛び込んできたのは、連邦の艦隊。その物々しさに、イリアの心臓はドクっと力強く鼓動する。
(何処かで争いごとかしら?)
艦隊の行動に、動揺を隠し切れない。何故ならイリアの幼馴染みがその連邦に所属しており、危険な仕事を行なっているからだ。そのようなことが関係したのか、無意識に幼馴染みの名前を呟く。幼馴染の名前を呟いたことにイリアはハッとなり、慌てて周囲に視線を走らす。
幸い、仕事をしているサラリーマンの耳には届いていない。聞かれていなかったことに胸を撫で下ろすと、再び時間を確認する。現在の時刻は五時を少し回っており、この時計はシャトルが到着するレミエルの標準時間を表示しているのでやはり迎えの心配をした方がいい。
(どうしよう)
厳格な父親に頼めないというのなら、頼みの綱は幼馴染になってしまう。「タクシーを使えば」そのように言い返されてしまいそうだが、友人達に多くのお金を貸してしまった手前、無駄な出費を行うことはできない。それに、自宅まで向かうだけの金は残っていなかった。
これで幼馴染に断れてしまったら、本当に自宅まで徒歩になってしまう。空港から自宅までは――女性が普通に歩ける距離ではない。都合がいい時に利用するとおもわれなくもないが、頼れるのは幼馴染しかいない。それに父親が迎えに来てくれるというのなら話は別だが、期待はできない。
娘を本当に心配しているというのなら、こういう時にこそ迎えに来るものだろう。言っていることと行動に矛盾を感じてしまうが、イリアは一度として父親に対し抗議したことはない。いや、するだけの価値がないと思っており、イリアと父親の親子関係はいい方ではない。
(シャトルが到着したら、連絡してみよう)
駄目だということはわかっていたが、イリアは連絡しようと思っていた。父親に断られてしまったら、幼馴染に頼み込む。しかし、幼馴染に断られてしまったら――連絡する前から徒歩で帰ることを考えるべきだと、彼女は覚悟する。だが、内心は迎えに来てほしいと思っていた。