エターナル・フロンティア~前編~

 これから行うべきことが決まると、友人達がいる座席に戻ることにした。しかし、彼女達の会話に加わることはしない。無論、二人もそのように思っているらしく、姿を見せたイリアを一瞥するだけで声を掛けることはしなかった。それどころか、楽しそうに会話を楽しんでいる。

 イリアは椅子に腰掛けると、バックの中から一冊の本を取り出した。これは、現代では珍しい紙の本。何故ならこの時代の本は文字や挿絵をデータ化し、ネットからダウンロードを行うのが主流なっている。その為、紙の本は評価が高く時として高額な値段で取引されている。

 現代、木から作られた紙は珍しい。それは森林保護という名目で、木を使用することが禁止されているのだ。しかし紙が存在していないわけではなく、科学的に作られた合成繊維を基にした紙が存在する。

 科学万能のこの時代、紙を使用する人物などいないと思われるだろうが、意外に利用者は多い。ネットワークのセキュリティーが完璧とされている現代であっても、所詮は人間が作った物。

 同じ人間がそのセキュリティーを打ち破れるわけがなく、想像以上に脆い部分があった。それが関係してか、重要なデータをアナログ媒体である紙で残す人物が多い。データ保存と違い持ち運びに不便とされているが、漏れる等の危険面を考えると此方の方が安心されている。

 発展した科学の背景でこのように過去の媒体が使われるとは、実に皮肉なものといっていい。だからこの紙という媒体の需要が見直され、多くの人物が使用しているのが現実である。

(えーっと、何処まで……)

 イリアがこのような古い本を購入した訳は骨董的価値があるということではなく、内容に惹かれ購入した。それはイリアの生まれ故郷で書かれた物で、今は廃れてしまい誰も見向きもしない神話。元々神話という話は好き嫌いが激しいジャンルで、表面に出ることは少ない。

 だが、イリアはそれが好きだった。

 その世界観が――

 一度、幼馴染の生まれ育った土地に伝わる神話を、話してもらったことがある。それが影響してか、今度は自分の故郷の神話を知りたくなったという。この小説もその神話。しかしかなり古い為、所々が抜けてしまっているので肝心な部分を知ることはできないでいた。

 その小説を手に取ると、何処まで読んだのか探す。目印としての栞を挟んでいなかったので、ページを捲り探していく。いくつかページを捲っていくと、記憶にある文章が発見した。そこのページを指で挟みつつ、もと来た場所へ帰って行く。この場所にいても、良いことはなかったからだ。
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