エターナル・フロンティア~前編~

 ユアンは、彼等――出資者を嫌っていた。しかし、大々的にそれを表すことはしない。表面上は機嫌を窺い、上手く取り繕えばいい。それに利用できる物を利用していかなければ、出世が望めない世界。

 彼等は、本質的部分にまで干渉することはできない。所詮、科学者ではない連中。その者達に研究の本来の意味を説明しても、全てを理解できるわけがない。現在の地位を、自力で獲得していない者達。ただ偶然にその一族に生まれただけで、別にその人物が偉いのではない。

 名前に、力が存在している。それを着飾っているだけだというのに、彼等は勘違いする者も多い。実に阿呆で、思考能力が著しく低下している者達の集まり。実力主義の中で自力でのし上がってきている科学者にしてみれば鼻で笑ってしまい、一部の者は彼等を見下す。

 別に差別しているのではなく、中には努力し続けている者も多い。そして一族の名に恥じない生き方をしているが、出資者達は違う。現在の地位と資金力は当たり前の物だと勘違いし、傲慢に振舞う。所詮、科学者は都合のいい道具。大金をちらつかせれば、尻尾を振ると思っている。

 そのような者達に対し、ユアンは手厳しい意見を述べていく。そう、弁論に関して誰にも負けない自負があった。それに、ちょうどいいストレス発散の対象。特に、今回のように気分が悪い時は最高の相手である。まさに、立て板に水。無論、相手に一切喋る隙を与えない。

「――という、訳です」

『わ、わかった』

 ユアンの弁論攻撃に負けた相手は、素直に折れる。それに相手も、ユアンの性格と特性は痛いほど理解している。要は「敵に回したら、厄介な相手」であるが、自分の方が優位に立っているという脆い自尊心に支えられているので、口調は相変わらず強い。だが、それは無駄な足掻きというもの。そもそも人生経験で劣っている人物がいくら威圧をしても、何の効力も持たない。

 寧ろ、笑いの対象として馬鹿にされるのが落ちだった。

「では、結果は後日」

『……期待は、している』

 そう言葉を残すと、一方的に電話を切ってしまう。それは、捨て台詞に近いものがあった。

(何と、わかり易い)

 問題提起が発生した場合、人間は何よりも「身の安全」を優先する。今回相手は、身の安全という名の「逃げ」を行った。勝てる見込みの無い相手に果敢に挑んだことは、素直に褒めることはできるが、自身の力量を測れるのも才能のひとつ。やはり出資者は、見掛け倒し。
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