エターナル・フロンティア~前編~

 一瞬、ソラの顔が浮かぶ。それは、昨日送信したメールの内容を思い出したからだ。しかしソラとは、互いの立場上そのようなことを考える余裕はない。無論、同じ立場であったら、何ら問題はない。それにソラが、イリアという女性をどのように見ているのかわからない。

 ふと頭の中に尊敬する博士の顔が思い浮かび、何度も溜息をついてしまう。イリアが尊敬している博士は頭が良く、生物研究の他に能力研究も行っているという天才。それにルックスが良く、同じ部署に限らず他の部署でも人気が高い。それだけ、その人物はカリスマ性があった。

 噂では〈ファンクラブ〉というものが存在しているらしいが、もし実際に存在しているというのならイリアは入会したいと考えていた。しかし何処で入会が行なわれているかわからず、意外に不明な点が多い。またそれなりの規模なら噂を聞いてもいいものだが、それさえ耳にしない。

(もし、ラドック博士と一緒に……でも、それは夢の中の出来事よね。それでも、中には……)

 尊敬している博士と仲間達。その者達と楽しく遊んでいるのを思い浮かべ、意識が別の世界に飛ぶ。完全に意識は、旅行気分。和気藹々と旅行を楽しみ、友人二人と行った時以上の感想を味わう。

 それは、想像という名の妄想。

 しかし、現実は思った以上に厳しい。

(でも……)

 女性らしい一面を見出せない自身の外見に、嘆いてしまう。テレビで活躍している女優のように容姿端麗スタイル抜群であったら、気になっている相手に振り向いてくれるだろう。そのように思うが、これは生まれつきのもの。もし変えたいというのなら、整形しかない。

 その時、洗い物を終えたヘレンがリビングに戻って来る。すると暗く真剣な表情を浮かべ、何度も溜息をついている娘の姿が視界の中に入った。その何とも表現し難い姿に、ヘレンは肩を竦めると大声で一喝し、朝から暗い顔をしていると幸福が逃げてしまうと教える。

 ヘレンの怒鳴り声にイリアは、食べかけのトーストを膝の上に落としてしまう。シャムをたっぷりと塗ってあったので“ベチャ”と嫌な音がし、スカートがジャムで汚れてしまう。慌ててトーストと剥がすが、着ていける状況ではない。それに漂う甘い香りが、何とも切ない。

 お気に入りの服が研究所に着て行くことができなくなり、イリアは顔を顰めてしまう。それを見た母親は、やれやれという表情を浮かべながらイリアに清潔なタオルを渡す。だが、吐かれる溜息がヘレンの心の中を表していた。要は「いい加減にしろ」と、言いたいのだ。
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