ロスト・クロニクル~前編~
「甘く見た」
「流石、メルダースだね」
「うん」
多くの生徒がメルダースの厳しさを理解していたが、まさかこれほどとは誰も予想していなかった。その為、新しく覚えた知識は生徒の頭をパンクさせ、覚えていた台詞が半分忘れてしまう。
だが、そんな言い訳は通じない。台詞を忘れてしまったのなら、また覚えなおせばいいからだ。
「まさか、学園長は……」
「多分、そうかも」
「テスト免除だからな」
メルダースのテストは、生徒達の気力を全て奪い去る。と言われているほど、難易度が高い。それを免除し演劇を行なう時点で、裏側に隠された真実に気付いていなければいけない。
全ての生徒が「テスト免除」の言葉で頭がいっぱいになり、重要な部分を見抜けなかった。
流石、クリスティというべきか。改めて認識した、学園長の曲者っぷり。と言って、愚痴は言えなかった。言ったら言ったで、何をされるかわかったものではない。それに楯突いた瞬間、人生が終わる。
生徒の中でクリスティの圧力で実家が潰されたという話は聞いたことはないが、風の噂で聞いたことがあるので、生徒達は「逆らう」ということは絶対にしない。いや、それだけの気力を持っていない。
「まあ、嘆いても仕方ない」
「だね。で、台詞の練習に付き合ってほしいな。僕も台詞の語尾の部分が、怪しくなってきた」
「主役は、台詞が長いからな」
「何で、あんなに長いのか。頑張って台本を書いた奴に文句を言いたくないけど、腹立つね」
「それは、エイルだからじゃないか」
「何で?」
「記憶力いいし」
そのような理由で台詞が長くなったというのなら、堪ったものではない。それにエイルに言わせれば記憶力がいい方ではなく、予習と復習を毎日のように行なっているので、授業で学んだことを覚えているだけであった。しかし、周囲はそのように見てはくれていない。その証拠に長い台詞を沢山用意され、覚えるのに手間取る。また時に、違う台詞と混同してしまう。