巡り合いの中で

 アリエルの必死の懇願と、セネリオからの頼みに獣医は「側」ではなく、隣の部屋からの見学ならいいという。

 獣医の言葉にアリエルは嬉しそうに何度も頷くと、彼の腕に抱かれているミーヤの頭を撫でる。

 するとミーヤも側にいてくれることが嬉しいのか、愛らしい声音でひと鳴きした。

 それはほのぼのとした光景であったが、ミーヤとの戯れに長々と時間を割くわけにはいかない。

 異常がないか早く検査を行い、飼い主登録の手続きをしないといけない。

 そのようにアリエルに話しミーヤから離れるように促すと、セネリオは獣医に視線を送り合図とする。

「では、この子を――」

「頼む」

 セネリオの返事に獣医は軽く頭を垂れると、診察を行う部屋にミーヤを連れて行く。

 名残惜しそうにしているアリエルにセネリオは声を掛けると、見学に使っていいと言われた部屋に案内する。

 その部屋は壁半分が特殊なガラス張りとなっており、隣で何を行っているのか丸見え状態だった。

「ミ、ミーヤ」

「今から検査だね」

「何を行うのですか?」

「身体に異常がないか、調べる」

「もし、異常があった場合……」

「その時はその時で、きちんと治療する」

「異常がなければ、いいですが……」

 先程の獣医に任せれば心配ないとわかっていても、アリエルは目の前で行われている光景を見るのはこれがはじめてなので、異様に緊張してしまう。

 勿論、ミーヤの検査に使われている「機械」という無機質な物体が安全な物と理解しているが、感情がそれに伴わない。

 刹那、ミーヤの鳴き声が響く。

「ミーヤ!?」

「今、薬を体内に入れたんだ」

「ですが、嫌がっています」

「しかし、予防の為に薬を投与しないといけない。そうしなければ、もっとミーヤが苦しむことになる」

「それでも……」

 セネリオの説明に納得できなくもないが、それ以上にミーヤが苦しがっている方がアリエルにとって何倍も辛かった。

 ミーヤの鳴き声が心の奥底に深く突き刺さったのだろう、アリエルは微かに眼元を濡らしている。

 そんな彼女の純粋さに、セネリオは掛ける言葉が見付からなかった。

< 112 / 161 >

この作品をシェア

pagetop