孤独な歌姫 緩やかに沈む


 やっと帰れる。
 その前にトイレだ。

 トイレの便座に座ると疲れでしばらくそのままボーッとしてしまう。




 そんな時、賑やかな声とともに誰かがトイレに入ってきた。





「は、最悪だね。その女」
「でしょ? 結局、お高く留まってるんだよ」




 どうやら入ってきた彼女たちは鏡の前で化粧を直しているらしく、個室に誰かが入っているかなんてのには気づいていないらしい。





「すぐ機嫌損ねるタレントってげんなりするわ」

「ホントだよ。機嫌とんなきゃイケナイこっちの身にもなってほしいよね」




 そして自分たちと関わった芸能人の悪口か。
 どこの世界でもこんなことはよくあるんだ。
 どこの世界でも。

「何様のつもりなんだろうね、そのMUって女」




 私の思考が止まった。




 “MU”

 ……? 
 私のこと?

 聞き間違い……じゃない……よね……? 


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