孤独な歌姫 緩やかに沈む


 てことは。
 この聞いたことのある声の主は。





「ハハ! 何様もなにもお嬢様、女王様ってとこでしょ。あの気取った態度が我慢なんない」





「言うね、カオリン。本人に言ってやれば? もうアンタの時代は終わったんだって。もうあんまり売れてないじゃん。そろそろ世代交代でしょ」





 カオリン。
 竹野香織?

 カオリなんてよくある名前じゃんって思いつつ、ドアの向こうから聞こえる声は聞けば聞くほどカオリンの声にそっくりだ。





 ただ、内容がいつもカオリンが話すような内容とはかけ離れているだけで。





「言えれば苦労しないの。言ったら、私の首が飛ぶわ」
「ま、せいぜい出てるうちだけちやほやしてあげれば喜ぶんだし? ま、ああいう奴らは単純だからね」
「そうそう。そうされてれば安心なんじゃない? 馬鹿だから!!」





 ギャハハ、と大きく笑った彼女らは私の話からは興味が失せたらしく、自分たちの化粧の話題に移った。





「あ、すっげカオリン、目力」
「うん、伶くんに教わったの」
「いいな、伶くん、イケメンじゃん」
「盗らないでよ?」
「恐くて小指一本出せませんてば」




 冗談めかしたそんな話を終えたら、あっという間に彼女たちはいなくなった。






 化粧の話なんて頭にはさっぱり入ってこなくて私はただ、呆然としたまま便座に座っていた。




 そして私は自分に言い聞かせる。


 こんなの……
 よくある話。

 たいしたことない。

 よくある話なんだから。




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