孤独な歌姫 緩やかに沈む
本人は気づいていなけど恋愛モード

 立て、私。
 顔を上げろ。

 足に力を入れてようやっと立ち上がった私は暫し、顔を上げれないでいる。
 あんな若い子に言われたことがこんなにショックだったとは。二度程、深呼吸をして心を落ち着かせた。





 今まで通りに。
 仕事は確実にこなせ。
 最高の仕事を。

 カオリンがあんなことを言ったって最高の仕事をすれば必ず見ていくれている人はいるんだ。
 怖がることなんてこれっぽっちもない。
 私はトイレを出ると真っ直ぐ吉住マネが運転する車へと向かった。





「遅かったわね、MU」
「いいでしょ、さっきので最後の仕事だったんだから」




「まぁ、そうだけど……疲れてるわね?」
「そりゃ、休みないですから」





 今月ももうあと数日で終わりだが、今月にまだ休みの予定はない。何かのキャンセルでもない限り休みにはならない。





 朝早くから仕事をして夜遅くに仕事が終わる。職種は違うが、キャリアウーマンとみたいな仕事だけに生きてきた女と生活はそう大して変わらない。






「そうね。休みももう少し取れればいいんだけど、あなた稼ぎ頭だから」





「わかってますよ……」
「明日は午後からのレコーディングだからゆっくりしなさい」





「……はい」

 そんなこと言ったってもう夜12時は既に回っていた。ゆっくりってこれからお風呂入ってご飯食べて何時間寝れるんだろう。マンションに着いてすぐには部屋に入らなかった。






 吉住マネの「ゆっくりしなさい」っていう言葉への僅かな抵抗だったのかもしれない。






 私はそのままマンションのエントランスからタクシーを呼び出してクラブへ向かったんだ。

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