孤独な歌姫 緩やかに沈む

「なぁ、夢羽」

 頭の上で声がした。彼の腕の中で私は眠っていた。

「んー……?」

 瞼をこすりながら、私は頭上の年上のこのオトコを見ようとする。
 だけど、彼はそれを許そうとはしなかった。私をギュッと抱いたまま、しっかりと頭を押さえて佐倉さんの表情を窺うことはできなかった。





「夢羽、歌ってなんだと思う」
「何って……私は歌がそこにあるから歌う。歌いたいから歌うんだ」





 私の答えを聞いた佐倉さんはクスっと笑って「お前らしいな」と独り言のように呟いた。私は彼の腕の中でまたウトウトしだして遂には二度目の眠りについてしまったのだった。






 ウトウトしていた時、前髪を優しく撫でられたような気がした。
 それと佐倉さんの声も聞こえた気がした。




「俺は歌いたいから曲を作るんじゃない。歌を届けたい相手がいるから作るんだ」





「お前にもそんな相手がいたらな」




 夢……だったんだろうか。あの言葉は。
 佐倉さんがそういう考えだとして。




 私にもそういう相手がいたらどうだって言うの……? 





 それは佐倉さんじゃダメなの……?

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