孤独な歌姫 緩やかに沈む

 ……わかってるよ。

 佐倉さんの薬指にはいつもシルバーの指輪が光ってる。




 彼には奥さんも子供もいるんだ。
 佐倉さんの中で私は商品でしかない。歌のために佐倉さんに恋をしようって。それなら枕営業にはなんないだろう、なんて甘い考え。





 本気で好きになったら辛くなるのは自分なのに。そんな切ない気持ちは胸の奥に深々と降り積もる雪のように募らせていくしかなかった。






 いつからだろう……? 





 彼を好きだ、と感じたのは。気づいたら、私の冷たい身体は温かくなってた。寂しくて寂しくて冷たい身体が。それを温めてくれたのは佐倉さんだ。





 温もりをくれた佐倉さん。

 彼が部屋を去る時は温めてもらった身体はまた冷たくなるのだけど。





 それでも私には歌がある。

 歌があれば幸せだから。




 ……佐倉さんの腕の中にいなくても。






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