レンタルな関係。
「ちょっと! なにすんの?!」


 零れた水が、スカートの下の膝を濡らしていて。

 蒸し暑い部屋で、冷たさがそこだけに集中する。


 引きつった顔で流川に視線を移すと、

 苦しそうに、顔を歪ませる流川。


「どうし…」


 どうしちゃったの?

 言いかけた時。


 流川の目がぎゅっと閉じられて。

 そのカラダが起き上がる。

 歪んだままの顔が、ギッと歯を食いしばるのが分かった。


 次の瞬間――



 
「―――っ!!」




 手首をつかんだままの流川のカラダが、

 私の上に降ってきて。



 ドサッ…



 濡れたフローリングの上に押し倒された。

 キャミソールの背中に浸み込んでくる水の感触に、悪寒が走る。


 空いていた右手首もつかまれて。

 両腕を拘束されて、床に押し付けられた私は、強いチカラに動けない。


 流川の黒い前髪が垂れて、その瞳に影を作って。

 鋭く、けれどどこか潤んだ目が、苦しげに私を見下ろしている。


 な…に…?


「流川…酔ってるんでしょ…?」

「ああ…酔ってるよ」

「酔ってるからって…こんなの…またからかってるんでしょ」


 必死に、作り笑いを浮かべて言葉をかける私。

 それでも…怖さで声が震えてしまって。


「おかしいよ、流川」

「おかしくねーよ」

「…え?」

「これが普通だろ」

「普通…って」

「目の前に女がいて、二人きりで。酔った男に無防備に近づいてくる女に手ぇださねーヤツなんていねーよ」

「…流…川?」


 絶対、変。

 こんなの、流川じゃない。





< 185 / 314 >

この作品をシェア

pagetop