レンタルな関係。
 私の話を聞いてるあいだ。

 表情ひとつ変えず。

 何本かのタバコと、お酒入りのグラスを口に運んでいたオネエマン。


 お酒を飲んで帰ってきた流川と私のシーンに差しかかったときに、少しその顔が崩れたけど。

 終始無言で、じっと耳を傾けていた。


 一通り話し終わって。


 なんていうか。話をしてしまうと。

 誰かにすっかり聞いてもらうと。

 ほんの少し、気持ちが軽くなったような気になる。


「ふ~ん」


 オネエマンはタバコの火を消して。

 なるほどね、みたいな顔をした。


「そんな感じです」


 私はうつむいて。

 順を追って思い出しながら話をしていたこともあって。

 やっぱり、ヤなことばかりだけじゃなかったな…

 なんて改めて感じて。


 一息入れるため。

 ボーイさんが運んできてくれたまま手付かずだったグラスを手に取った。


「うぎゃっふぉ! んげぇっほ!」


 勢いで半分以上飲んでしまって…むせった。


 そういえばこれ、お酒じゃん。

 しかも初めて口にする、色物の。

 つ、強すぎる…


 かぁっと熱くなる頬をさすって。

 黙ったままのオネエマンをちらりと見た。


「ヤッちゃえば良かったのに。バカね、アンタ」


 …え?


「そうよ、もったいない。ナオちゃんに迫られて受け入れないなんて、アホね」

「でもナオちゃん、やっぱりイイ男ね」


 …ええ?


 らぶりー留美は…

 黙ったままで。

 勝手なセリフが聞こえてきたのは、私の背後。


「あっ わわわっ…」


 ずらり。

 背中合わせになっているソファに座った、オネエマン一同。

 どうやら私の話を聞いていたらしい。


「きっ、聞いてたんですか!?」


 びっくりして、オシリが浮く。


「当たり前じゃない。デカイ声で“教えてくださいっ!”なんて叫んでるんだもの」

「何事かと思うじゃないの」

「私たちみたいにキレイになる方法でも知りたいのかと思ったわ」


 ……それはないから。




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