あなたのために。-光と影-
ふっ…
妻を名乗らなければいけない理由がない、そうだ、そうじゃないか。
なんて開き直っていたら不適に笑う声が聞こえた。
何だと思って顔を奴に向ければ、奴は怪しい笑みを浮かべていた。
こんな風に笑う奴は初めて見たけど、誰が見てもこれは嫌な予感しかしない。
「お前言ったよな?『あなたには救われた』って」
きっと何も言い返せないのは、それが事実だから。
確かに言った。『あなたには救われた』と。
実際奴には大切な人を守れずに死ぬところを、救ってもらった。
「…っ!ま、まさか…」
嫌な時ほど勘というものはよく当たる。
私の勘が当たっていれば奴はきっとこの手を打ってくる。
「俺がお前を救った。ならお前は俺に借りがある。それを今使え」
言葉の足りない奴の代わりに要約すれば、奴が私を救った借りを、私が奴の『正妻』と名乗ることで返せということ。
見事に勘が当たり、的のど真ん中に的中する。
そして私はそれを言われてしまって、何も反論が出来なくなった。
だって私には奴に救ってもらった"借り"があるのだから。