あなたのために。-光と影-




「……っ…」




勢いよく起き上がれば、右手がうまく使えなくて痛みを感じた。




夢…?今のは夢だったの?




夢だったことに安心したと同時に襲ってきたのは、見たくもない過去の夢を見てしまった苦痛。




今でも鮮明に覚えてる両親が自殺をした姿。




「…う、……」




思い出すだけでも吐き気がする。
どうして今になってあのことを思い出したんだろう。




ふと痛みと不自由さを感じた右手を見れば、右手首はギプスで固定されていた。




……そうだ。
私は日向をも巻き込もうとする奴を殺そうとして手首を折られたんだった。




奴に頭冷やせって言われて、悔しくて泣いて…それからの記憶がない。
きっと泣き疲れてそのまま寝てしまったんだ。




人を殺そうと思ったのは何度もある。
でも本気で殺そうと思ったのは、あれが初めてな気がする。




奴に毒を盛ろうとした時も直前で戸惑いが残っていた。




今回は自分の気持ちに迷いがなかった。
今になって手が震えてきた。




白兎に止められていなかったら私は奴を殺していた。
その後にきっと私も殺されていた。




冷静になった頭で考えれば、自分が情けなかった。
日向のことを自分一人じゃ守れない悔しさを、奴にぶつけた。




簡単に言えば八つ当たり。
それが過剰になって奴を殺そうとした。




ううん。
頭に血が上った私にはそれしか考えられなかった。




きっと奴は隣の部屋のソファーで寝てるだろう。
いくら妻とはいえ自分を殺そうとした女の隣でなんて眠れるわけ………




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