蜜は甘いとは限らない。【完】




わしゃわしゃとその毛を触っていると、手を掴まれた。





「人の頭クシャクシャにしてんなよ……?」

「?」




くるんと自分の体が反対側に向けられ、目をうっすらと開ける。




……あは。




「お、おはよう、寺島」

「テメェ、寝惚けてんのか」




目を開ければ、青筋を立てて微笑む寺島が居た。



「そ、そんな怒らなくてもいいでしょ。
まずなんでここに居るのよ」

「話し逸らすな。
…ここにいるのは…まぁ、流れだ」

「なんのよ」

「うっせ、寝ろ寝ろ」

「…はぁ」




目を泳がしたところを見て、あたしが寝てから勝手にこの部屋に入ってきたことが分かる。



普通勝手に女の部屋に、しかも寝てるベッドに入ってくる?




寝る気満々の寺島はあたしを正面から抱きしめ直して目を瞑る。



…………くそ、やっぱり肌綺麗ね、この男。

睫毛は長いし、さっき触った髪も柔らかかったし。



無防備に寝る寺島なら、まだ可愛い気もしなくもない。




なんて、考えながら寺島を見ていると抱きしめられてるからか、ポカポカと温かい体のせいか、知らない間にまた眠ってしまっていた。




「……寝てる時は、可愛い顔してるのな」

「ん……」




そして、眠ったあたしの頬を触る寺島のことを、眠ってしまったあたしは知らない。




< 124 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop