蜜は甘いとは限らない。【完】
わしゃわしゃとその毛を触っていると、手を掴まれた。
「人の頭クシャクシャにしてんなよ……?」
「?」
くるんと自分の体が反対側に向けられ、目をうっすらと開ける。
……あは。
「お、おはよう、寺島」
「テメェ、寝惚けてんのか」
目を開ければ、青筋を立てて微笑む寺島が居た。
「そ、そんな怒らなくてもいいでしょ。
まずなんでここに居るのよ」
「話し逸らすな。
…ここにいるのは…まぁ、流れだ」
「なんのよ」
「うっせ、寝ろ寝ろ」
「…はぁ」
目を泳がしたところを見て、あたしが寝てから勝手にこの部屋に入ってきたことが分かる。
普通勝手に女の部屋に、しかも寝てるベッドに入ってくる?
寝る気満々の寺島はあたしを正面から抱きしめ直して目を瞑る。
…………くそ、やっぱり肌綺麗ね、この男。
睫毛は長いし、さっき触った髪も柔らかかったし。
無防備に寝る寺島なら、まだ可愛い気もしなくもない。
なんて、考えながら寺島を見ていると抱きしめられてるからか、ポカポカと温かい体のせいか、知らない間にまた眠ってしまっていた。
「……寝てる時は、可愛い顔してるのな」
「ん……」
そして、眠ったあたしの頬を触る寺島のことを、眠ってしまったあたしは知らない。