蜜は甘いとは限らない。【完】
そう言ってあたしに早く降りるように手を出し、あたしを見る。
...何も映さないその目は、いつからなのだろう。
なんて、同情してしまうくらいに黒く濁った目を見て思ってしまった。
「お嬢様」
「...今降りるわよ」
じっといつまでも動かないあたしに痺れを切らした山中が手を伸ばすけど、それを無視して降りる。
そんなあたしに慣れたように、直ぐにあたしの斜め後ろについて歩いてきた。うざい。
「...なんで付いてくるの」
「暫く、私がお嬢様の監視役と言われましたので」
「そんなもの要らないわ」
「旦那様のご命令ですので」
立ち止まらずに言えば、当然のように帰ってきた返事。
...あんたはそれしか言えないのね、昔から。
だからこそ、あたしは山中のことが苦手だ。
これ以上何かを聞いても意味が無いと思ったあたしは大きすぎる庭を歩く。
...なぜこんなに歩くのかというと、
「...いつになったら家に着くの」
「もう、目の前にあるじゃないですか」
「見えてるばかりでさっきからずっと歩いたままじゃない」
庭が、大きすぎるからだ。