俺と無表情女の多表情恋愛


「…桐生さ、そんな表情出来るんだったら普段からそういう表情表に出せばいいのに」


「そういう………?」



言ったそばからまた真顔になる桐生に笑ってしまう。当の本人は全く自覚なしってことなのか。
というか、もしかして俺しかこんな表情見たことないんじゃ………っ!


急激に上がる心拍数。
え、ちょっと待て何これ。

落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせるけど、滅多に黙ることのない俺がいきなり黙ったから不思議に思ったのか、急に顔をのぞき込んできた。



「どうしたの?顔赤いよ」

「な、なんでもないから」

「そう?熱とかあったら大変だから、家帰ったら暖かい格好した方が良いよ」


分かった、と返事をしてまた何事もなかったかのように歩き続ける。

その後の沈黙は俺にとってもどかしくて、いつもどんなこと話してたっけ、なんて柄にもなくぐるぐると考えていた。




「送ってくれてありがとう」


「いや、全然大丈夫。通り道だし」


結局黙ったままついてしまった桐生の家はこの辺じゃ噂の超高級マンションで、さすが桐生先生が住んでいるだけはあるな。なんて変なところを関心してしまったりする。

呆気にとられたようにマンションを見上げ続けていると、くすっ、と笑う声が聞こえた気がした。



「……今笑った?」

「べつに?」


視線を降ろして見た桐生はいつもの桐生だった。見逃したか…。

なにかもったいないことをしてしまったような気がして損した気分になったけれど、心なしか嬉しそうに見える桐生を見て、まぁいっか、なんて思う俺は桐生を気に入ってるのかもしれない。






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