無口な上司の甘い罠
1.三十路は負け組?!
「あ、坂口さんだ。もう30でしょ?

結婚もしないでさ、仕事ばっかり…いわゆる負け組ってヤツ?」

そう言ってクスクス笑い合っているのは、

まだ入社して1.2年ほどの若い女子社員達。


…陰でこんな事を言われるのは、日常茶飯事だった。

でも、私は気にしない。…全くではないけれど、

いちいち気にしていたら、仕事なんてやってらんない。


「おい、坂口、これ頼むわ」

そう言って書類の束を差し出したのは、同期の荻田隆盛(おぎたりゅうせい)

「エ、また?これ、荻田の仕事でしょ。自分でやりなさいよ」

そう言って隆盛に書類を突き返す。


「そう言わないで頼むわ。こっちの案件が溜まり過ぎて手におえないんだよ」

そう言ってパソコンを見せられる。

…これは確かに大変だ。

隆盛は、人一倍仕事ができる。それにかこつけて、

周りからどんどん仕事を頼まれ、断れず、やり始めるが、

こうやってパンク寸前になると、私に助けを求めるのだ。


「…仕方ないな、やってあげるけどさ」

そう言って溜息をつきながら、書類をパッと奪い取る。

「助かる」

そう言って手を合わせた隆盛。
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