演劇部の記憶
記憶、お父さんの偽装
わたしは第一志望の演劇学科のある大学に合格し、東京に出た。そして、当然のように高校で始めた演劇を続けるため大学の演劇サークルに入ったが、去年ほど乗り気にはならなかった。
 理由は2つあった。
1つはわたしは友達の住むアパートに比べてひと世代古い、古びたアパートの一階に住んでいたこと。本当は、もう少しいいところに住みたかったが、父親が転職し、給料が安くなったということで泣く泣く受け入れた。一人暮らしのサークルの友達同士、いろいろ家を行き来するのだが、どうにもわたしは家に友達を呼びにくかった。そして、もう一つの理由。1年目ということでサークルの中でも雑用ばっかり。特に、大学演劇祭の会場になっていることもあり雑務の量は異常だった。わたしは舞台に出られなくて嫌気がさした。弘は今年も《若者の祭典 演劇部門》に出場するだろう。1年生たちも弘と一緒に演劇に出ているだろうか。彼らは去年嫌々演劇をやっていたわけではなかろうか。確かに舞台にも出演させたけど、雑用をメインにさせてしまった。
 
そして夏休みが近くなってきて、はじめての帰省のためJRのチケットを取ろうとしていたある日のこと。新聞に「ニッポンミートグループ鶏肉産地偽装か?」という見出しがのった。
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