演劇部の記憶
――第32回 若者の祭典 演劇部門 全国大会

 このタイトルの下にはデフォルメの地球の絵。地球が絵を描いていたり、将棋をしていたりと結構特徴的な絵だ。
 ああ、この絵を見たのは高3の時以来の二年ぶりだなとわたしは思いながらベッドに横になった。

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「マスター。コーヒー」
 喫茶「宮沢」に通い始めて1年半。一言でマスターとの意思疎通はできるようになっていた。マスターと呼ばれているのは太めの中年のおばさん。数年前に主人をなくした後は、2代目マスターとして今は一人でこの店を切り盛りしていた。
「新学期一週目から高校を抜け出してきはったの? 親御さんは何か言いはんないの?」
「お母さんは、高校はどうでもいいから卒業して大学に行ってくれればいいみたい。お父さんは、高校これだけ休んでるのばれたらめちゃくちゃ怒ると思う。ばかみたいにまっすぐな人だから。でも、仕事も忙しいみたいでうちにいないし、ばれないはず」
「お父さんは何をやられているんだっけ?」
「ハートフル畜産っていうところで食肉の卸業」
「お母さんは怒らないの?」
「だって、あの高校にわたしの居場所もうないし、そのことをお母さんももう知っているから」
 わたしはあっけらかんと答えた。
「まあ、無事進級しているところを見ると、勉強はできるようだし、来年卒業したあとは大学行って、野球を再開するとかなにか考えているの?」
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