弱い私も受け入れて
弱い私
――カチカチカチ


誰もいなくなって私1人が残るスタッフルームの中には、時計の秒針の音が大きく響いている。他に聞こえるものと言えば、私のすすり泣く声だけだろうな。


就業時間も終わり、他のスタッフが帰ってから随分と時間が経っていることは分かっている。けれど、私は自分の机に突っ伏して動けないままで居た。


泣いているといっても、自分自身に悲しいことが起こったわけではない。ただ、自分の無力さを思い知り、命の儚さをまざまざと思い知らされて、感情をうまく処理できないでいた。そうしているうちに、なぜだか涙が出てきて、自分ではどうしようも出来なくなってしまった。


しばらくこのままで居れば何とかなるんじゃないか、そう思い始めてからも時間はどんどんと過ぎていってしまった。


もういいや、警備の人が来るまでまだまだ時間はあるだろうし、追い出されるまでここに居ちゃおうかな、なんて事まで考えている。


けれどそんな私の思惑も、静かに開いた扉の音と、現れた人物に壊され、そしてヤバイと焦ってしまった。






「……あれ、井上さんまだ居たんですか?」


そっとしておいてくれという私の願いが通じるわけもなく、なんとも軽い口調で彼……香坂君は私に話しかけてきた。


もちろん無視するわけにはいかないため、彼には見えないように慌てて涙だけ袖でごしごしとふき取ってから顔をあげた。


よく見れば私がいつもと違う状態だったって容易く分かるだろうに……って、彼にそれを察しろって方が無理に等しいか。私がここで見てきた彼には、そんなスキルは備わってなかったはずだ。

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