家へ帰ろう
田舎の町が近づいてきた事を知らせるアナウンスに、自然と心が安堵した。
窓の外は、少ない灯りでとても暗い。
ホームに降り立つと、一気に蝉や蛙の声たちに包まれた。
ずっと五月蝿いと思っていたその鳴き声に、胸が熱くなる。
寂れた改札を潜って駅を出ると、見慣れたブルーの軽トラが止まっていた。
俺は、鞄を背負い近づいていく。
何も言わずに助手席のドアを開けて乗り込んだ俺に、運転席に座る父親は何も言わなかった。
無言でエンジンをかけ、家に向けて車を走らせるだけ。
窓の外は、少ない商店と民家。
あとは、畑と田んぼだけ。
見慣れて飽き飽きしていたはずのその景色が、今は心を温かくしていく。
父親は、朝、昼、晩と、畑仕事ばかりに精を出す毎日。
唯一の楽しみは、毎晩必ず飲む安い焼酎だけ。
そんな父親から。
今日は、少しも酒の匂いがしなかったことに、また涙が零れそうになった。
俺は、その涙がばれないよう。
また、見慣れて飽き飽きしていたはずの景色に目をやった――――。